黒川博行氏の〝勁草〟を読みました。 [雑記]
オレオレ詐欺を働く男二人と大阪府警特殊詐欺捜査班の刑事二人の攻防を描く物語です。
黒川氏の作品は〝破門〟〝泥濘〟そのほか思い出せませんが何冊か読みました。やくざ二人にしろ、警察二人にしろ、登場人物の会話のやり取りが面白くて、ついつい次の作品は、と探し求めてきました。
今回の〝勁草〟はテーマが重苦しすぎるからでしょうか、会話に軽さがありません。面白味が少し減ったかな、と感じました。人が次々に死んで行きます。現代社会の病魔を表現しているのだから、こうなるのも仕方がないのでしょうか。
高野史緒氏の〝カラマーゾフの妹〟を読みました。 [雑記]
ドストエフスキーの名作〝カラマーゾフの兄弟〟を前編と仮定しての、後編の作品です。
そんなことをしていいの?と、なんだか恐ろしい気持ちが沸き起ります。同時に作者の大胆不敵な試みに拍手を送りたいとも思いました。
〝カラマーゾフの兄弟〟が完成した時、十三年後に続編を書くと、ドストエフスキーは宣言していたそうですが、
その時が来る前に逝去してしまいました。
高野氏は文豪の宣言を、自分の腕を持って実現し、この世に送り出したというわけです。
内容は面白かったです。なにしろ文豪の名作をふまえての物語ですから。
ドストエフスキーの〝カラマーゾフの兄弟〟をもう一度、丁寧に読み直してみたいという気持ちになりました。
奥田英朗氏のvariety(ヴァラエティー)を読みました。 [雑記]
短編七編、対談二編から成る一冊です。
それぞれがまとまりのいいお話です。思わず笑ってしまいました。あるいは、ほっと溜息の出る話や怒りが
湧き出る話もありました。
野阿梓氏の〝月夜見エクリプス〟を読みました。 [雑記]
漫画はほとんど読みません。それでも、この作品は漫画を文章化したもののように思われてなりません。
話の進め方がシンプルで、説明部分が多過ぎます。文章の行間に含まれているべき情感がありません。
若い人たちが読めば、また違った感想も出てくるのかもしれませんね。
初めから終わりまで性表現があふれ出ていて、窒息死しそうでした。
島本理生氏の〝ファーストラヴ〟を読みました。 [雑記]
父親殺しで収監された女性の心を理解しようとする臨床心理士と国選弁護人、二人の心の成り立ちをも丁寧に描かれています。ただ、彼らの背景に浮かび上がる父親と母親の姿がワンパターンに過ぎるのではないでしょうか。
終盤に出て来る裁判の場面は、簡潔で分かりやすかったです。
まだ若い作家なのに、読ませますね。これからの作品を期待したいと思います。
藤田宜永氏の〝喝采〟を読みました。 [雑記]
分厚い探偵小説です。
ちあきなおみの〝喝采〟という歌が好きで、タイトルに惹かれて読みました。
探偵はいいのですが、女主人公の姿が立ち上がってきません。
名歌〝喝采〟が三か所くらいに登場しても、本文はどこかかけ離れているという
印象を拭い切れませんでした。
道尾秀介氏の〝満月の泥枕〟を読みました。 [雑記]
どうしようもなく自分を貶めずにはいられない主人公は、不思議と周囲の人たちからいたわりの目で眺められています。長屋の人情噺に見せかけながら、なにかが違うようです。ハッピーエンドで終わるのでなく、隠された秘密もあちこちにちりばめられてありました。
高野史緒の〝翼竜館の宝石商人〟を読みました。 [雑記]
十七世紀半ばのアムステルダムの話です。
世界中の金が集まってくる、栄えた商業都市ですが、海面すれすれの高度しか持たない国土では、いつも洪水に脅かされ、湿度に悩まされています。
この陰鬱な地に不思議な死亡事件が起こり、不思議な人たちが謎の解明に乗り出します。
話が終わってみれば、だまされていたのは読者だったと気づかされて、後になって歯がみをします。
これってミステリーなのでしょうか。小説にもだまし絵が登場する場合、なんと名付けたらいいのでしょうか。
村田沙耶香氏の〝地球星人〟を読みました。 [雑記]
毎年夏になると父親の生まれ故郷に帰省する菜月一家。山の上の田舎暮らしには、ああそうだったな、と懐かしく思い出せる風景が描かれています。ところが、主人公である小学生の菜月はポハピピンポボピア星から地球にやってきた魔法少女であるらしいのです。
童話ではありません。いじめあり、虐待あり、殺人あり、人肉を食する行為(カニバリズム?)あり…。
ついに爆発的な終焉を迎えます。
好みではありません。どこかですれ違いが起きているようです。
本を一冊読み終わりました。 [雑記]
飯嶋和一の〝星夜航行〟です。
豊臣秀吉が朝鮮、明国に出兵した頃の、戦国時代の物語です。
関白秀吉の尽きることのない野望と妄想に引きずられるように、戦国大名が功を争って朝鮮半島に出て行く有様が詳細に描き出されています。またこの兵を迎え撃つ朝鮮と明国の将軍たちが一人ひとり、その名前もつまびらかに紹介されていて、よくも調べたものだと感心しました。
それでも、戦争ばかり続く物語はうんざりします。もう読むのを止めようかと思う頃に、ひらりと英雄が出現します。沢瀬甚五郎は戦国武将ではありません。生まれは武家の出でも商人になります。世の中の成り立ちを冷静な目で見つめる姿に惹かれます。大名の得手勝手な思惑に引きずりまわされる底辺の人たちの悲哀を理解する心を持ち合わせている人物です。
始まりと終わりに、(途中でも頻繁に)この沢瀬甚五郎なる人物が出て来て、小説をきりっと引き締めてくれました。